「大東亜戦争の定義に関する質問主意書」鈴木宗男君
今回は少し古く、第一次安倍内閣の頃。何度も再質問を出すことで有名、ある意味質問主意書界の「レジェンド」である、鈴木宗男衆議院議員(当時)によります、「大東亜戦争って何?」「大東亜戦争って呼称を使うことは適切?」という質問主意書です。
「聞いてどうするんだ」という疑問はさておき、皆さんお気づきでしょうか?
首相が誰かに問わず、首相談話など政府の公式な発表で、「第二次世界大戦」や「太平洋戦争」と発言することは、ありません。
「先の大戦」といったような表現が使用されます。「先の大戦」については、「十五年戦争」だの「アジア太平洋戦争」だの、学術用語としては流行りの変遷もありますね。学術用語と政府の公式呼称は、当然別物。以下、質問主意書全文です。
大東亜戦争の定義に関する質問主意書
一 大東亜戦争の定義如何。大東亜戦争という呼称の法令上の根拠を明らかにされたい。
二 太平洋戦争の定義如何。太平洋戦争という呼称の法令上の根拠を明らかにされたい。
三 太平洋戦争に一九四一年十二月八日より前に行われていた日中間の戦争が含まれるか。
四 政府は、いつから大東亜戦争という呼称を用いなくなったか。その経緯と法令上の根拠を明らかにされたい。
五 政府は公文書に大東亜戦争という表記を用いることが適切と考えるか。
右質問する。
では、答弁書を見てみましょう。
衆議院議員鈴木宗男君提出大東亜戦争の定義に関する質問に対する答弁書
一について
昭和十六年十二月十二日の閣議決定において、「今次ノ対米英戦争及今後情勢ノ推移ニ伴ヒ生起スルコトアルヘキ戦争ハ支那事変ヲモ含メ大東亜戦争ト呼称ス」とされているが、お尋ねの定義を定める法令はない。
二及び三について
「太平洋戦争」という用語は、在外公館等借入金の確認に関する法律(昭和二十四年法律第百七十三号)等に使用されているが、お尋ねの定義を定める法令はなく、これに日中間の戦争状態が含まれるか否かは法令上定められていない。
四について
昭和二十年十二月十五日付け連合国総司令部覚書以降、一般に政府として公文書においてお尋ねの呼称を使用しなくなった。
五について
公文書においていかなる用語を使用するかは文脈等にもよるものであり、お尋ねについて一概にお答えすることは困難である。
この答弁書は、熱がこもっています。
通常、「法令上の根拠」を質問されれば「存在しない」と答えれば事足りるところを、わざわざ「法令はないけど閣議決定しているよ」と、聞かれてもいないことをわざわざ答弁しているのです。
なお、「閣議決定」とは「政府公式見解」にほかならず、東條内閣の閣議決定は依然として有効であると、わざわざ回答していることになります。
一方、「太平洋戦争」については、「定義はない」と答弁していることからも、「大東亜戦争」と「太平洋戦争」、どちらの方が公式であるとしているかは明らかでしょう。
鈴木宗男代議士は、翌年も同じような質問主意書を提出しています。
質問と答弁が極めて完結なので、一問一答式に掲載します。
衆議院議員鈴木宗男君提出大東亜戦争の定義等に関する質問に対する答弁書
一 大東亜戦争の定義如何。
昭和十六年十二月十二日当時、閣議決定において「今次ノ対米英戦争及今後情勢ノ推移ニ伴ヒ生起スルコトアルヘキ戦争ハ支那事変ヲモ含メ大東亜戦争ト呼称ス」とされている。
二 太平洋戦争の定義如何。
「太平洋戦争」という用語は、政府として定義して用いている用語ではない。
三 大東亜戦争と太平洋戦争は同一の戦争か。
「太平洋戦争」という用語は政府として定義して用いている用語でもなく、お尋ねについてお答えすることは困難である。
「大東亜戦争」は対英米戦争に「支那事変」や、そのあと発生した対ソ戦なども含めた戦争であると明確に回答している一方、「太平洋戦争」については、「知らない子ですねえ」と答えています。
端的に言えば、日本政府として「大東亜戦争」は正しいですが「太平洋戦争」は何を指すのか明らかではないため、間違いなのです。
文章で先の大戦を取り扱う場合、「大東亜戦争」に「昭和十六年十二月十二日の閣議決定において、「今次ノ対米英戦争及今後情勢ノ推移ニ伴ヒ生起スルコトアルヘキ戦争ハ支那事変ヲモ含メ大東亜戦争ト呼称ス」とされている」と注釈をつけることを推奨します。
「 国難突破解散の意味に関する質問主意書」立民・逢坂誠二君(衆)
先の衆議院議員選挙では、安倍総理が「国難突破解散」と銘打ちました。「総理が命名する」という慣習は必ずしも存在しなかったかとは思いますが、いろんな意味でパワーワードだったため、定着してしまいましたね。「お前が国難」という反応が大量にあったことは、むしろ如何にインパクトの強い言葉の選択であったかという証左でしょう。
あまりにもパワーワードなので、私は第四次安倍内閣を、「国難突破内閣」と心の中で呼称しています。
「国難ってなんですか?」
「国難を突破するとは、どういうことですか?」
「選挙の結果、国難を突破するに得る信託を得たと思いますか?」
「国難ってあまり聞かない言葉だけど、なんで使ったの?ごまかしてるの?」
逢坂誠二代議士の質問主意書紹介は早くも二回目ですが、そもそも逢坂代議士は質問主意書の三分の一という圧倒的シェアを誇っているので、お察しください。
私は逢坂誠二代議士を、「東の横綱」と勝手に呼んでいます。題を見ただけで、どれが逢坂代議士の質問かわかります。
答弁を要約すると、以下の通りです。
「国難」の意味を知らないみたいだから、広辞苑に書いていることを教えてやるよ
「国難」を「突破」って、話が広すぎて答えようがないけど、首相はこう言ってたよ
「「国難」は「突破」されるに至る信託」」って何?意味不明
「あまり聞かない」とか「ごまかす」の定義がよくわかんないなぁ
はい、これもいい木鼻答弁ですね。
平成二十九年十一月一日提出
質問第五号
安倍総理は、九月二十五日の記者会見で、「この解散は、国難突破解散であります。急速に進む少子高齢化を克服し、我が国の未来を開く。北朝鮮の脅威に対して、国民の命と平和な暮らしを守り抜く。この国難とも呼ぶべき問題を、私は全身全霊を傾け、国民の皆様と共に突破していく決意であります」と述べた。
この「国難」の意味について疑義があるので、以下質問する。
一 「国難」の定義について、政府の見解を示されたい。
二 「国難」を「突破」するということは、具体的にどのような状態に至ることを考えているのか。政府の見解を示されたい。
三 今次の総選挙の結果、「国難」は「突破」されるに至る信託を国民から得たと安倍総理は考えているのか。見解を示されたい。
四 「国難」というような、普段、国民が用いない用語を使って、本来問われるべき安倍政権のこれまでの政治成果の是非を問うことを見失わせるような手法は不適切ではないか。安倍総理の見解を示されたい。
右質問する。
衆議院議員逢坂誠二君提出国難突破解散の意味に関する質問に対する答弁書
平成二十九年十一月十日受領
答弁第五号
内閣衆質一九五第五号
平成二十九年十一月十日
衆議院議員逢坂誠二君提出国難突破解散の意味に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員逢坂誠二君提出国難突破解散の意味に関する質問に対する答弁書
一について
お尋ねの「国難」については、一般的に、「一国の危難。(出典 広辞苑)」を意味しているものと承知している。
二について
お尋ねの「国難」の「突破」について網羅的にお答えすることは困難であるが、その上で申し上げれば、安倍内閣総理大臣は、平成二十九年九月二十五日の記者会見において、「急速に進む少子高齢化を克服し、我が国の未来を開く。北朝鮮の脅威に対して、国民の命と平和な暮らしを守り抜く。この国難とも呼ぶべき問題を、私は全身全霊を傾け、国民の皆様と共に突破していく決意であります。」と述べたところである。
三について
お尋ねの「「国難」は「突破」されるに至る信託」の意味するところが必ずしも明らかではないため、お答えすることは困難である。
四について
お尋ねの「普段、国民が用いない用語」及び「本来問われるべき安倍政権のこれまでの政治成果の是非を問うことを見失わせるような手法」の意味するところが必ずしも明らかではないため、お答えすることは困難である。
(参)自由党・山本太郎君「警察官及び警察行政職員の採用試験に関する質問主意書」
「警察関係の仕事に就けないバックグラウンドってあるの?」
「もしあるのなら、憲法違反じゃね?」という質問主意書がありました。
長いので全文はこちらに引用しませんが、見たい方はこちらをクリックしてください。
山本太郎議員といえば、新左翼の一派である中核派(正式名称:革命的共産主義者同盟全国委員会)と関係の深いことで知られています。
私の了解するところによると、警察にとって共産主義者は反社会的勢力、要は暴力団のようなものです。
これは、「どうせこっち側の人間は採らないんだろ、それ憲法違反だから」という質問であり、答弁としては「うっせーな、少なくともお前の縁者は採らねーよ」と言いたくなるのではと思う質問ですが、答弁書は以下のとおりです。
参議院議員山本太郎君提出警察官及び警察行政職員の採用試験に関する質問に対する答弁書
一から六まで及び十について
お尋ねの「身辺調査」の意味するところが必ずしも明らかではないが、警察職員の任用については、任命権者において、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)、地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)その他の関係法令に基づき、警察職員に求められる能力や適性等を公正かつ厳格に判断して行っているものである。
七及び八について
お尋ねの「身辺調査」の意味するところが必ずしも明らかではないため、お答えすることは困難である。なお、警察職員の任用については、一から六まで及び十についてでお答えしたとおり、任命権者において、国家公務員法、地方公務員法その他の関係法令に基づき、警察職員に求められる能力や適性等を公正かつ厳格に判断して行っているものである。
九について
お尋ねの「汚職防止等」の意味するところが必ずしも明らかではないため、お答えすることは困難である。なお、警察においては、警察職員の職務倫理及び服務に関する規則(平成十二年国家公安委員会規則第一号)に定められた警察職員が保持すべき職務に係る倫理及び警察職員の服務の基準が遵守されるよう、会議、研修等の機会を利用して同規則の趣旨、内容等の周知を図っている。
十一及び十二について
お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、御指摘の刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第二百三十九条第二項及び刑法(明治四十年法律第四十五号)第百五条の規定の適用については、個別具体的な事実関係に即して判断されるべきものであり、一概にお答えすることは困難である。
十三について
お尋ねについては、政府として把握していない。
十四について
お尋ねの「学力試験や面接試験等の採用試験が公平かつ客観的に行われたかどうかを受験者が確認する手段」の意味するところが必ずしも明らかではないため、お答えすることは困難である。
以上、わりと横着こいて束ねている上に、「お尋ねの~の意味するところが必ずしも明らかではない」を多用しているあたり、「何をおっしゃっているのか、わからないですねぇ」という、徹底的にしらばっくれた、いい「木鼻答弁」ですね。
「警察職員に求められる能力や適性等を公正かつ厳格に判断して行っているものである」(真顔)から察しろ、以上、という感じです。
この質問は、「珍」ととるか、「好」ととるか、立場によって分かれるでしょうが、単純に面白かったので、高く評価したいです。
(衆)立民・逢坂誠二君「戦士の国家日本の意味に関する質問主意書」
トランプ大統領が訪日前に発言した「サムライの国、日本」について、「政府として、どういう意味だと思ってるの?」「『サムライの国』は日本の外交方針なの?」「日本の核武装に繋がるの?」というような趣旨の質問主意書が、立憲民主党・逢坂誠二衆議院議員から提出されました。
もはやタイトルだけで面白い、出オチ感のある、いい珍質問です。 私は個人的にこの手の質問を、「クソリプ質問主意書」と呼んでいます。外務省の役人は、どんな顔をしたことでしょうか。
以下、全文を引用します。
平成二十九年十一月六日提出
質問第一八号
十一月二日、アメリカのトランプ大統領はFOXニュースの番組に出演し、Donald Trump on Thursday warned China that “warrior nation” Japan could take matters into its own hands if the threat posed by North Korea is not addressed.(ドナルド・トランプは、北朝鮮の脅威に対処しなければ、「戦士国家」日本は自国の問題として、自らの手で対処するだろうと中国に警告した)と明らかにした上で、“Japan is a warrior nation, and I tell China and I tell everyone else that listens, I mean, you're gonna have yourself a big problem with Japan pretty soon if you allow this to continue with North Korea,”(私は、日本は戦士国家であると中国や他の国々にも言っている。つまり、この意味は、中国が、北朝鮮の核開発の継続を許すなら、中国はすぐに日本との間に大きな問題を持つことになるだろう)と表明した。
十一月五日にアメリカのトランプ大統領が訪日し、安倍総理と首脳会談を行い、その中で、北朝鮮問題が大きな比重を占めていることが報じられている。
これらの発言に関して政府の見解を確認したいので、以下質問する。
一 日本の同盟国であるアメリカの大統領が日本のことをwarrior nationとアメリカの有力メディアで語ることで、世界的な反響が生じるものである。日本がwarrior nationであることは、首脳間で合意された日本政府の基本的な外交方針であると考えてよいか。見解を示されたい。
二 政府はwarrior nationとはどのようなものと認識しているのか。
三 トランプ政権下の日米間の外交文書などで、日本を指すものとしてwarrior nationなる言葉が用いられたことはあるか。
四 政府は、トランプ大統領のこれらの発言をどのように理解しているのか。見解を示されたい。
五 中国が北朝鮮問題に対処しなければ、Japan could take matters into its own handsであると日本政府はアメリカ政府と確認しているのか。見解を示されたい。
六 政府は、Japan could take matters into its own handsは、どういう意味と理解しているのか。
七 六に関連して、own handsとは、北朝鮮のthreat(脅威)というような北朝鮮が具体的な武力行使を日本に対して行わないとしても、自衛権の行使が行われるという意味か。見解を示されたい。
八 トランプ大統領のいうa big problem with Japan pretty soonは日本の核兵器の保有を示唆しているとも受け取られかねないが、政府の見解を示されたい。
九 北朝鮮の脅威が高まり、中国がそれに十分対処しないとしても、日本が非核三原則という基本政策を変更することはせず、自ら核抑止力を保有することはないという理解でよいか。
右質問する。
質問が9点にわたっていますが、タイトル以上の意味がない質問ですね。以下、政府答弁書を転載します。なお、安倍総理が外遊中だったため、麻生副総理が代理で署名しています。
衆議院議員逢坂誠二君提出戦士の国家日本の意味に関する質問に対する答弁書
一、二及び四から八までについて
御指摘の米国政府要人の発言の逐一について政府としてお答えすることは差し控えたい。
三について
お尋ねの「日米間の外交文書など」の意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難である。
九について
政府としては、今後とも非核三原則を堅持する所存である。
7点を一行で答える束ねっぷりといい、「これぞ木鼻答弁」と言いたくなる、いい答えですね。翻訳すると、だいたいこんな感じでしょう。
「米大統領の発言とか、日本政府の知ったことかよ」
「外交文書などってなんだよ、質問が意味不明」
「はいはい非核三原則は維持しますよ」
「国民の選良」と「秀才」のやりとりとは思えないところがありますが、まだまだ珍質問主意書は大量に生産されていますので、引き続き紹介していきたいと思います。
質問主意書とは?(質問主意書用語集)
本ブログでご紹介する、「質問主意書」とは何なのか?
立憲民主党の長妻昭衆議院議員のホームページでは、次のように解説されています。
質問主意書制度とは、国会議員が内閣に文書で質問した場合、内閣は閣議決定のうえ、回答義務を負うもの。巨大な行政機構をチェック・是正出来る武器(国会法74条、75条)。本質問主意書がきっかけで是正された事項も数多い。
概ね、この説明で正しいと思われますが、「国会議員が内閣に文書で質問」と「閣議決定」の間に、「所管省庁の担当部署の官僚が、答弁書を作成する」というプロセスがあります。ここにおいて、担当者がどんな顔をして答弁書を作成するために残業しているのかを想像する、という愉しみが発生します。
最近では、田原総一朗氏が会長を務める「NPO法人 万年野党」が、質問主意書の提出件数を議員の評価基準として採用していたりと、「質問主意書をたくさん出すと、活動をちゃんとしていると評価される」傾向もあります。
しかし、ここで一つ、論点が浮上します。そう、評価されるのは「数」です。質問主意書の「粗製濫造」という四字熟語が、頭に浮かんできます。
「国民の選良」たる国会議員が、国家公務員試験を及第した「秀才」たる官僚たちに繰り出す「好質問・珍質問」を、答弁とあわせて追っていきたいと思います。
質問主意書用語集(最終更新:令和2年3月2日)
あ
【当たる】
官庁が答弁担当となること。
【一時間ルール】
内閣官房総務官室が「この質問、おたくが所管官庁ですよね」と答弁担当として仮決定した場合、「当たった」部門は「いやこれはうちじゃありません」とたらい回しにしたい場合、一時間以内に返答しなければならない。次に「当たった」部門でも「一時間ルール」が発生し、このキャッチボールを延々繰り返す場合もある。→【割もめ】
か
【木鼻答弁】
まるで木で鼻をくくったかのような、何も答えていない答弁。単に「木鼻」とも。
【広辞苑】
閣僚の発言などで用いられた語句について質問があった場合、広辞苑最新版を引用することで、「辞書くらいひけボケ」との意思を表明することが多い。
さ
【サービス残業】
「質問主意書の答弁書作成及び野党やマスコミからの資料要求への対応について、各府省に確認した限りにおいては、超過勤務命令に従い勤務しているにもかかわらず、それに対する超過勤務手当が支給されていない事例はなかった」ことになってる。
「質問主意書の答弁書作成等に関する質問主意書」民主・長妻昭君(衆) - 国会「好・珍質問主意書」
た
【束ねる】
複数の質問項目に対して、答弁項目を一つにまとめること。例えば以下のように、「木鼻」との合せ技が用いられる場合も。
一から四について
お尋ねの「〇〇」の意味するところが必ずしも明らかではないため、お答えすることは困難である。
な
は
ま
や
ら
わ
【割もめ】
所管範囲、答弁担当官庁を押し付け合うこと。(同義語)【消極的権限争い】