国会「好・珍質問主意書」

本ブログは、衆参両院に提出された質問主意書と答弁書の中から、「これは」というものを、独断と偏見で選び、面白がる目的で設立しました。

「 反社会的勢力の定義に関する質問主意書」立民・初鹿明博君(衆)

 こちらはやや旧聞となってしまいましたが前第200回国会、「反社会的勢力」の定義をめぐり、立憲民主党初鹿明博代議士(東京16区)より提出された質問主意書

 菅官房長官による「反社会的勢力は様々な場面で使われ、定義は一義的に定まっているわけではないと承知している」という、これには金融機関も苦笑いな身も蓋もない答弁が飛び出したことに関連して、「いや、定義はしたことあるでしょ、他に用例があるなら教えてくれ、定義がないと困ることもあると思うが、定義するとしたらどう定義するの?」という質問。

 初鹿明博代議士はこれまで数多くのクソリプ質問書を生み出し、本ブログとしては、全体的な傾向として「観点が目新しいわけでもなく姿勢も悪意的かつ作り込み度も低い」と見ており、必ずしも高く評価していませんが、この質問は「そうだよなあ」と言わざるを得ません

 「クソリプ質問主意書」といえば、悪意なく友達にリプライを飛ばすノリで質問主意書を提出するのをライフワークにしていた立憲民主党・逢坂(おおさか)誠二代議士は、政調会長になってから忙しいのか、質問主意書を出さなくなってしまいましたね。

 閑話休題、まず、法律で定義できない理由は官房長官による答弁のとおりで、さらに言えば「広くとる」運用の余地を作り出すことにもあり、概念と具体例を「ふんわりと」決める必要があった、というのが前提でしょう。そこで第一次安倍内閣全閣僚が出席する「閣僚会議申し合わせ」という形により「指針」を定めたわけですが、「反社の定義が一義的に定まっているわけではない」という、狭くとる方向でぼやかすのは如何なものでしょうか。

 また、反社排除は広く進められていますが、概念と具体例も政府として「一義的に定まっていない」ものを根拠に、口座開設や就業などの自由を制限することになるのは、ちょっと問題があるではと疑問があります。

 というわけで、右紹介する。

反社会的勢力の定義に関する質問主意書


 政府は平成十九年、犯罪対策閣僚会議の下に設置された暴力団資金源等総合対策ワーキングチームにおける検討を経て、企業が反社会的勢力による被害を防止するための基本的な理念や具体的な対応について、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を取りまとめました。この指針において、「反社会的勢力」とは、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」と定義し、民間企業においても、この定義のもとに反社会的勢力との関係遮断に取り組んできています。
 ところが、菅官房長官は本年十一月二十七日の記者会見の中で、反社会的勢力は様々な場面で使われ、定義は一義的に定まっているわけではないと承知しているとの発言をしました。
 この発言を受けて、以下政府の見解を伺います。

一 政府は上記指針において定義している「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」以外の意味で「反社会的勢力」という単語を用いたことはあるのでしょうか。
二 他の意味で用いたことがあるのであれば、閣僚や政府参考人等の国会答弁、各種施策の説明資料を含めて実例を全て明らかにし、どのような意味で用いたのかを説明してください。
三 民間企業は上記指針に基づいて、反社会的勢力との関係の遮断や不当な要求等への対応を行ってきたと承知しています。しかし、異なる定義があるとすると対応方針を変更する必要が生じかねません。政府として、改めて「反社会的勢力」とは何かを定義付ける必要があると考えますが、いかがでしょうか。
四 また、定義付ける場合、どのような定義となるのか具体的に示してください。

 右質問する。

 初鹿代議士には珍しく、質問内容と意図が明らかな構成ですね。

 はい、答弁を見てみましょう。

 

一から四までについて

 政府としては、「反社会的勢力」については、その形態が多様であり、また、その時々の社会情勢に応じて変化し得るものであることから、あらかじめ限定的、かつ、統一的に定義することは困難であると考えている。また、政府が過去に行った国会答弁、政府が過去に作成した各種説明資料等における「反社会的勢力」との用語の使用の全ての実例やそれらのそれぞれの意味について網羅的に確認することは困難である。
 なお、御指摘の「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(平成十九年六月十九日犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)は、暴力団の不透明化や資金獲得活動の巧妙化が進む中で、民間企業が「暴力団を始めとする反社会的勢力」との関係を遮断し、これらによる被害を防止することができるようにする観点から、そのための基本的な理念や具体的な対応について取りまとめたものである。現在、民間企業においては、当該指針を踏まえた上で、「暴力団を始めとする反社会的勢力」との関係の遮断のための取組を着実に進めている実態があるものと承知している。

  束ねて答弁していますが、あえて2つにバラすと、

問:「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」以外の定義はあるのか?あるなら教えて下さい。
答:色々確認するのは大変なのでお答えできません。

問:定義がないと民間企業も困るのでは?定義するとしたらどう定義しますか?

答:反社はその時々で形態が多様なので、あらかじめ定義することは困難。民間企業は「基本的な理念や具体的な対応について取りまとめた」「当該指針」にもとづいて取り組んでいると承知。

 と、いうことになりますが、「基本的な理念や具体的な対応について取りまとめた」指針って、やっぱ「定義」じゃないのか?閣僚会議で取り決めた「指針」が「政府としての定義」でなかったら、一体なんなんだ?「こんなものよく閣議決定したな」と、かなり驚きました。平成三十一年度珍答弁グランプリとして差し支えないでしょう。

 なお、この答弁書を受けて、本国会(第201回)において立憲民主党・櫻井周君(兵庫6区)より、「政府が法解釈にかかわる言葉の定義をコロコロ変えるのは社会に悪影響があると思うがどうか」との趣旨の質問主意書が提出されています。

政府が「定義を定めることは困難」と答弁することに関する質問主意書

 答弁書の該当部分答弁はこちら。

 御指摘の答弁書(令和元年十二月十日内閣衆質二〇〇第一一二号)一から四までについては、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(平成十九年六月十九日犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)の内容を何ら否定するものではなく、従来の政府の見解を変更しているものではない。すなわち、御指摘のような「言葉の定義を突如として変更する」というものではない。

  つまり、指針にある「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」との「従来の政府の見解」を変更しているものではないので、言葉の定義は変更していない、とのことですが、じゃあ反社の定義として、少なくとも「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」は含まれるんじゃないのか?と、突っ込まざるを得ない、また訳のわからない答弁書が繰り出されました。

 「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を否定すると反社排除の取り組みが崩壊するので絶対に否定できない、むしろ有効であると積極的に示さざるを得ず、しかし一方で「一義的に定義できない」で通さなければいけない、というルールで答弁を作らされていると思いますが、これは無理ゲーですね

 意味不明な答弁書がどんどん積み上がっていますが、もちろん閣議決定は政府公式見解なので、日本政府がある限り永遠に前例として残ると思うと、胸が熱くなりますね。